扉の向こうで石を積んでいる少年Aの手記

今日は学科内で新入生歓迎会があったのだけれど、そんなことはどうでもよくて、というかむしろいまさらやるのかとか学科で新歓やるとかどうなの、とかいう疑問はあるけれど、そんなものはさておき、とりあえずそんなことがどうでもいいくらい困ったことがおきてしまってそれをどう書き表せばいいのかというのを悩んでいたりする。
さて。どこから話せばいいのかはわからないけれど、とりあえず新入生歓迎会というのがどういうものなのか、というものを説明したほうがいいだろうか。とりあえず新入生歓迎会というのは一般に新歓と略されることが多い。「しんかん」と聞くと僕なんかだと「新刊」とか「神官」に変換されてしまうのだけれど、実際のところ大学生が「しんかん」と呼ぶときは大体「新歓」というのが正解。どんなことをするのかといわれると難しいもので、単純に新入生を歓迎しているといえば聞こえがいいが、実際のところ歓迎している側が先輩風を吹かしながら大学とはどういうところなのかというのを虚偽流言を駆使してえらそうに講義するところというのが一般の認識だと思う。往々にしてそんな認識を持っていた僕も行くのには非常にためらったのだけれど、ひどくお酒が飲みたい気分だったのでこっそりと参加してみることにした。恐る恐る覗いてみると、予想通りというか若々しいオーラとやらを放つ新入生一同が年寄り一同の歓迎など必要なくわいわいと楽しそうにしていた。こっそりと忍び込んでチューハイを一本あけてぐびぐびと飲みながら、若いというのはすばらしいものだなあなどと年寄りくさいことを考えていた。歓迎会も無事終わりさあ帰ろうかというところで、知り合いが一人「生卵欲しい人いる?」などといっているのが耳に入った。卵といえば最近はめっきり口にしておらず、実のところのどから手が出るほど欲しかった。じゃあ俺もらうよ、などと言って手で持ったはいいものの、ひどく邪魔である。そこで一つ考えて、僕はリュックサックの中にしまうことにした。その後二次会なるものがあると言うことで、酒を飲み足りない僕はのこのことそちらのほうについていったのである。二次会に来た新入生はわずか五人でひどく少ないなあなどと思いつつも、たくさん来てしまうとまた払うお金が多くなってしまう、などといかにも小市民的なことを考えていた。その席でもやはり新入生とはあまり喋ることは無く、本当に歓迎しているのだろうかなどと考えてしまう。
家に帰ると、何をしたと言うわけでも無くぐったりとしてしまっていて、どうしてだろうかなどと考えもしないまま、さて寝ようかしらと思ってリュックをあけるとぐちゃりという音がする。そこでようやく生卵の存在を思い出した僕は、ほろ酔い加減も一瞬のうちにさめ、中のものを確認したのだけど、当然のごとく中のプリント類や何やらは全滅で、もはやまともに使えない。以前バッグの中に水をぶちまけたときはまだ紙がしわくちゃになるだけですんでいたのだけれど、今回に関しては黄色く染み渡っているし、何か匂いがする。
あーあ。
不幸中の幸いとしてHDなどの電子機器は被害を被っていなかったのだけど、それにしても被害は甚大で、中のものを全部取り出したあとにそこを眺めるとなにかぴちゃぴちゃという音がする。パジャマのまま、卵の白身ティッシュで吹くという行為はどことなくやるせないのは男性諸君にはよくわかるのではないだろうか。軽くぬぐった後、すぐに洗濯機に放り込んで、夜なのにもかかわらず外に干した。明日、というか今朝には使えればいいのだけれど、まあ無理だろう。仕方の無いことだ。
新入生を歓迎するはずが、とんだ災難に巻き込まれてしまったわけで、世の中というのは全く何が起こるかわからないものだなあと思ったりもする。まあ差し入れに来た教授と雑談できたからいいかなあと思いつつ、すぐそこに迫った六月の終わりを待っていたりする。