雑記

昨日の夜から降り始めた雨は今日も降り続いていた。ひどく寒くて、雨粒の冷たさがひどく体にこたえた。冬の雨だった。
葬儀はひっそりとというほどでもなく、ほどほどに執り行われた。僕は五時半頃に会場について六時に始まる通夜の開始を待っていた。僕がついたときには長いあいだあっていなかった親戚たちも勢ぞろいしていて、そこで挨拶を済ませた。話したことは大体形式どおりで、しばらく見ないうちに大きくなったとかそのようなことだったと思う。通夜が始まり焼香を済ませると僕は親族の席についた。式の間けばけばしい色の風景や、参列者を眺めながらぼんやりとしていたと思う。やけにリズムのよいお経がひどく眠気を誘った。お坊さんの説教が終わると、みんな二階へと登り忌中払いをすることになった。周りの人に次々にビールを注がれて、二十歳になったのだからと飲まされた。酒の弱い僕は二、三杯でくらくらしてきてしまったのだけれど、ぼんやりとした頭で親戚にされる質問に答えていた。宴もたけなわになり始めた頃、僕はこっそりと席を抜け出して外でタバコを吸うことした。外からぼんやりと見える中の風景はどこか希薄で現実のことのようには思えなかった。今思えば、悲しさを紛らわすために精一杯明るく振舞おうとする人間が出す独特の雰囲気に似ていたように思う。
そしてもうしばらくしてから両親とともに家へと帰った。
翌日の告別式は11時ごろから始まった。雨がとても冷たくて、来ていたスーツの上にいつもは着ないコートを着た。もう一度皆で焼香を済ませたあと、一度会場の外に出されることになった。僕はその日は受付をしていたので、中にいた。そこから、昨日座っていた席のほうを眺めると、葬儀会社の人たちが手際よく部屋を片付けていた。
片づけが終わると、一同皆呼び戻されて、「お別れの儀」というやつをやった。葬儀会社の人が「最後のお別れになりますので・・・」と言って棺を開けると、ひどく力のない顔がその中に見えた。そして、棺の中に肩身の品を入れる段になると、周りがみなぐすぐすと泣き始める。僕はそこまで近縁でもないから物を入れないようにと思って後ろの方で待っていたのだけれど、葬儀会社の人に見つかって結局やることになった。入れる際に顔をよく見ると目蓋はくぼんでいたから、もう眼球はなくなってしまっているのかもしれない。そのあと、もらった花を祖母に渡すと祖母は棺の中に向かってぼそぼそと泣きながら何かをつぶやいていた。たぶんお見送りとかその類の言葉だと思う。僕は入れた花が体にもたれかからないように気をつけて入れた。最終的に体は花に囲まれてそこから顔だけが見えるようになっているその光景はなんだかひどくグロテスクに見えた。
棺が閉められる直前に彼女の兄弟たちが泣きながら何かを言っていた。周りを見ると、ほとんどの人が泣いている。それを見ていると、以前行った知り合いの葬式のことを思い出してしまう。そのときも彼の妹が棺に向かって「兄ちゃん、兄ちゃん」と泣きすがりついていた。もしかしたら死自体が涙を誘うのではなく、それを受け入れられない周りの人たちの反応がそうするのかもしれない。そのときもそうだったのだけれど、今回も涙が出ないことにひどく居心地が悪くなってしまって、親戚の陰に隠れるように壁にもたれかかっていた。
そして少ししてから斎場へと向かい納骨をした。燃えてしまうと人間というのは小さなもので、小さな壷一つに体全てが収まってしまう。骨の周りはかなり熱くて、そこからは香水のような匂いがした。たぶんほんとうのにおいを隠すためのものだと思う。僕は隣にいた叔母さんと一緒に小さな骨を壷の中に入れた。軽いような重いような不思議な気分だった。そのあとぼんやりと斎場の人が骨を片付けるのを見ていたのだけれど、そのときに親戚の叔母さんが唱えていたお経がやけに耳に付いたのを覚えている。
そして最後にお寺へと向かい、墓に骨を納めた。
雨は少しだけ強くなっていた。